沖正弘導師は、諸道諸芸のコツは呼吸の把握にあると教えます。
「素早い動作をするためには、素早く緊張できる神経と筋肉とをもっていることが必要である。緊張ができるためにはよくゆるんでいないといけない。よくゆるんでいてこそよくしまることができるのであってこの緊張と弛緩とをコントロールする大本が呼吸である。だから呼吸を把握することが諸道諸芸のコツを会得することである。だが呼吸を動作に際して意識的にコントロールしようとしてもできないのである。やはり、修練をつんだ結果、自然に身についてくるのが物事の呼吸である。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房76頁)
諸道諸芸はもとより、一つ一つの実務をこなして生活し仕事するためには、締まること(緊張)と緩まること(弛緩)のバランスが求められます。それには、心においても体においても、しっかりした中心軸を定めていかねばなりません。
心では、自分はこのために生きていくという明確な志や、これを大切に守って人生を全うしていくという固い信念があるかどうかです。体では、「素早く緊張できる神経と筋肉とをもっている」かどうかでしょう。
それらが整えば、心身ともに中心軸が定まり、どっしりした体幹が養われてまいります。そして、ムダのない動きや、素早い動作が可能となるのです。
要するに緊張と弛緩は、二つで一つであり、どちらも重要なのです。緊張ばかりしていたら息が続かないし、弛緩ばかりであったらだらける一方となります。
筆者は、一回の講義に長ければ6時間(合宿なら10時間に及ぶことも)かけます。その間、ところどころで氣合いを込めて熱講したり、スッと言葉を和らげたりします。また、(よくすべりはするものの)ジョークを入れて場を緩めながら話を進めます。それがどうにか身に付いたのは、本当に長年に亘る(講義という)修練の結果です。
実際、緊張と弛緩の両方が無ければ、話すほうにとっても聞くほうにとっても、長時間の講義なんて、眠くて疲れるだけのただの拷問に過ぎないでしょう。
講義中に氣合いを入れたり、力を抜いたりするのは、まさに呼吸のコントロールです。筆者の講演・講義回数は、もうじき4700回に到達します。(講義という)話道のコツとして、「自然に身について」きた呼吸がそこにあると自負しています。(続く)