心や呼吸が乱れると、重心に狂いが起こる。そして、「スキ(隙)」が生じるということについて、もう少し考えてみます。例えば、勝負欲や金銭欲などの私欲が強く現れますと、勝ちたい・儲けたいという焦りによって心が乱れます。心が乱れれば、呼吸が浅くなり、そこにスキが生じます。
そうして視野狭窄に陥り、眼前(足元)の利益しか見えず、遠くを見通すことが出来なくなっていくのです。結局、近いところも遠いところも見えていないため、広く全体を見渡すことが不能となってしまうわけです。
ところで、筆者は東洋思想などの講座の講師を長年務めてきました。参加者の中には、次々と知人を講座に誘い入れてくださる人がいます。どうしてこの人に誘われると、まるで魔法にでも掛けられたかのように多くの人が反応するのだろうかと疑問に思ったものです。
そこで、よく観察してみました。そうしたら、ある誘い上手な人の場合、「この人を引き入れたら都合よく使えるな」とか「誘い入れて得してやろう」などといった、何らかの私心・私欲で声を掛けているのでは無いということに気付きました。
つまり、低次元の欲が無いのです。自然体になって、相手の向こう(奥にある本質)を見ています。相手の向こうを見ながら、この人に何を加えてあげたら、もっと成長するだろうか、誰とつなげてあげたら、さらに活躍するだろうか、という具合に「素直に見えてくる可能性」を感じ取りっているのです。
そうして、本人が気付いていない「内在する可能性」や、見過ごしている「注意点(改善したほうがいい事)」などを見抜き、それを元にアドバイスし、機会(講座)や人物(講師)を紹介してくださいます。そのときの呼吸は深く、重心は安定しているはずです。そんな人に誘われたら、魂に何かを感じますから、参加してみたくなるのも当然のことでしょう。
もう45年くらい前のことですが、沖正弘導師は何度か筆者に対して、「俺はな、お前が自分のことを考えているよりも、もっとお前のことを考えているんだぞ」と言われました。そのときは、一体何のことなのかよく分かりませんでした。後になって、「お前の向こうに潜んでいる本質や可能性を見ている」ということだったのだろうと覚った次第です。(続く)