其の七十七 心や呼吸が乱れると、重心に狂いが生じ、スキ(隙)ができる…

瞬間に応ずる身のさばきは、武道やスポーツばかりでなく、生活や人生においても重要です。生活即武道、人生即修練というのが基本であり、後れを取ることの無い速さは、普段から身に付けておくべき「武士の心得」でした。

刀は武士の魂であり、刀を抜くべきときに、間髪を入れずに抜いている自分がいなければなりません。そのような覚悟を据えた自分となるためには、丹田を中心に体幹を整え、中心力や統一力を養っておく必要があります。続きを学んでいきましょう。

「この重心は、心理、生理、解剖いずれについてでも少しでも乱れが生じれば狂ってくる。古来から、この重心安定の目的でいろいろな修行法が行われてきたのである。

角力や柔道にあっては、正しく重心が下がっていれば倒されない。だが心や呼吸が乱れると同時にこの重心に狂いを生じるのであって、この場合をスキができたというのである。重心の安定を自己化するためには、正しい姿勢と、整った呼吸にもとづいた動き方の練習をしなければならない。ただ、でたらめに練習しても決して上達はしない。歪んだ動き方や乱れた呼吸の仕方をする体ができあがるだけである。この練習の基本を体得するためには厳しい躾けと訓練とが必要である。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房75~76頁)

この文の「重心」が丹田です。重心は大変“デリケート”な存在であり、「心理」上での乱れや迷い、「生理」面での体調の不良、「解剖」的な骨格や筋肉の不調等によって、たちまち狂いが生ずるとのことです。

角力(すもう)や柔道のように組んで闘う武道では、しっかりと重心が下がっていれば倒されません。でも心や呼吸が乱れると、直(ただ)ちに重心に狂いが生じます。それが、「スキ(隙)ができた」という現象なのです。(続く)