其の七十 一つの世界に長く身を置き、年を取るほど、自分から苦言を求めよう!

自己発見のためには沢山の苦労を重ねる必要があり、それには「苦言を呈してくれる者を求め」るのがいいとのことです。どの世界でもそうですが、先へ行き、年齢を重ねるほど、誰も注意してくれなくなります。誰だって人に意見するのは、決して気持ちのいいことではないからです。

そこで、一つの世界に長く身を置き、年を取るほど、自分から苦言を求めて「修正すべき点」を指摘して貰い、常に自己成長を止めないことが肝要となります。

林は、67歳の現在も空手道の稽古(シニアコース)を続けています。東京にある空手道本部道場に通えるのは月に2回程度ですが、自主稽古を月に20回ほど行っています。道場では、毎回師範から注意を受け、修正すべき点を指摘されます。それを忘れないようメモしておいては、自主稽古で直すよう努めます。

武道は唯一の趣味です。若い頃から、柔道・居合道・合氣道・空手道などに励んできました。段位は合わせれば十二段となり、それなりに動作が身に付いていると自負していました。が、64歳から通うようになった空手道場の指導は、なかなか細かい点に厳しく、まさに苦言を頂戴している状態です。

また、65歳から学んでいるのが、高野山大学大学院(通信教育)での密教学です。これまで構築してきた「綜學」(そうがく)の一層の進化を求めて、まさに綜合學問の先達というべき空海に学ぼうと思って入学しました。

大学院で学びたかったのは、空海の世界観、言語観、生命観、霊魂観などです。もちろん、それらを学んでいます。それと共に、大学院ですから学術研究の進め方や、論文記述の基本を修得することになります。その指導はかなり手厳しく、少しでも根拠に乏しい情緒的な文を書こうものなら、たちまち「それは大学院レベルではない!」という鋭い指摘を受けてしまいます。

「文」の大学院修学も、「武」の空手道稽古も、教授や師範から受ける注意は、この年齢になってここまで言われたらへこんでしまいそうな言葉ばかりです。でも、それによって心身の老化や硬化を防げることは確かなのですから、本当に有り難いことです。

それから、私が講師を務める講座(林塾や綜學院など)では、塾生や受講生にワークを作成して貰います。その際、一つの見本として「林の記入例」を配り、それをもとに説明してから作成に取り組んで貰っています。そうしたワークは何種類かあって「林の記入例」は、それぞれ毎年更新しております。この毎年の更新は、「今年の自分」から「昨年の自分」に対する苦言であると言ってもいいでしょう。

また、講演や講義をする際、その演題や内容が、これまで何度も話してきたものであっても、毎回必ず見直しをしつつ準備に努めます。これも、「今回の自分」から「前回の自分」に対する苦言なのだと思っています。講演や講義では、死ぬ前のそれが一番良かった、最高だった!と言っていただけるよう精進しています。(続く)