世界中どこの国の文化も、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を使って成り立っています。中でも日本文化は、いっそう五感を繊細に働かせていると思われます。
日本画の自然な色彩の豊かさ、自然の音と一体化する邦楽器音、自然の香りをたしなむ香道、抹茶の自然な味わいを頂戴する茶道、手の鋭敏な感覚を生かす陶芸などを見れば、日本人がとりわけ繊細さを生かしてきたことが分かります。
しかし、効率性や便利さを追い求めてきた現代文明によって、鋭敏で繊細な感性は随分鈍ってきたように見えます。本来の日本人の感性や感覚を取り戻すには、もっと自然の光や色を見、自然の音を聴き、自然の香りを嗅ぎ、自然の味をいただくことを習慣化するのがいいと考えます。それから、触覚では、陶芸などの他、園芸や庭いじり(草取りも)などを通して土に触れるのもいいでしょう。
そうして、意識して五感を働かせてまいりますと、それをもとに、次第に第六感(直感や霊感)が高まってきます。五感を通して第六感が働くようになるのです。やがて、内なる声を以前よりも聞けるようになって、心身に生じた異常を素直に感じ取ることが出来るようになるというわけです。
自然の音といえば、虫の音と邦楽器音は、よく融合するのだそうです。文学紹介者の頭木弘樹(かじらぎひろき)氏が、新聞に次のような記事を書いておられました。
(令和3年11月2日付日経新聞「くらしナビ プロムナード」より要約・抜粋)
(ここから)
宮古島のアパートで虫の音がすごかったとき、クラシック音楽のCDをかけてみたら壊滅的に聴けなかった。「いろいろかけてみていたら、尺八のCDが、まったく問題なく聴けた!」。琴、琵琶、能楽、雅楽などのCDも大丈夫だった。「純邦楽は虫の音とケンカすることなく、互いを高め合った。」
「自然の音は、たとえば虫の音と川の流れる音と鳥の声とが同時に鳴っても、ぶつかり合うことはない。すべて一体となり心地よく聞こえる。日本の音楽はそういう自然音のひとつであることが境地なのだ。
沖縄の地元の人が浜辺で三線を弾いていると、海の波音や風の音や雨の音がしても、ぶつかり合うことはなく、三線の音があることで、自然音までよりよく聞こえる。」
(ここまで)
そして、自然の音と虫の音、邦楽器音などの融合に、さらに大和言葉の音が加わります。自然発声音で成立する国語(日本語)は、大自然や大宇宙の響きと一つになるのです。(続く)