其の六十九 目標が遠いときほど、近くをよく見よ。そのほうがよく当たる!

距離の離れた目標になかなか当たらないという場合、対策として手元のポイントをよく見ることで命中精度を上げるという方法があります。ボーリングが一つの例で、レーン上の手前にスパットというマークがあり、プロボーラーはピンではなくスパットに狙いを定めて投げるのだそうです。

筆者も若い頃、友人たちと結構ボーリングに興じました。上手くはありませんが、一度だけ200点を超えたことがあります(確か206点)。そのときは一番ピン(先頭のピン)を外したのに、なんと後ろのピンが前に転がって一番ピンを倒すという幸運が数回重なってストライクが増え、終わってみたら200点超えだったのです。

そうやってたまに高い点が出るので、ちょっとだけいい気になりました。あるときプロ並みに上手い人から、「スパットを見て投げると上達するよ」というアドバイスを貰いました。それで何回かやってみるのですが、ガーターが増えるばかりで巧くいきません。結局諦めて、自分はフックボール(カーブするボール)なんて投げられない素人なのだから、やっぱりピンを見て投げることにしようと思い直したことがありました。

そんな私に、きっと兼好法師は「ダメダメ、遠くを見ないで足元をよく見なさい」と厳重注意してくるに違いありません。

《徒然草:第百六十七段》其の一
「貝合わせをする人が、自分の前にある貝を差し置いたまま、他所(よそ)のほうを見渡しては、人の袖の陰や膝の下まで目を配るが、その間に前にある貝を合わされてしまう。

よく合わせられる人は、他所まで無理に取るようには見えない。近くばかりを合わせているようでありながら、結局多く合わせていく。

碁盤の隅に碁石を置いて弾くときに、向こう側の石を見つめて弾いても当たらない。我が手元をよく見て、ここ(手元)にある筋目を狙って真っ直ぐ弾けば、置いた碁石に必ず当たるものだ。」

※原文のキーワード
貝合わせをする…「貝をおほふ」、差し置いたまま…「おきて」、無理に…「わりなく」、置いて…「立てて」、見つめて…「まぼりて」、筋目…「聖目」(続く)