とにかく黙っていられない。他人の領域までしゃしゃり出ては論評し、通ぶって自慢する。そういう輩がときどきいます。
「一つの芸道にたずさわる人」というのは、何かの分野に秀でている人のことです。既に一つの分野で活躍して実績を上げていますから、どこへ行っても注目を集めます。自信に満ちており、自分にとって専門外の分野でも喝采(かっさい)を浴びたくなって、つい次のようなことを口に出してしまいます。
「ああ、これが私の得意分野の道であったならば、こうやって傍観しないでいいものを」。自分の得意分野に長(た)けてくれば、確かに他の分野の要点やコツも分かるようになります。それで、つい何か言ってやりたくなるというわけです。
この「傍観しないでいいものを」というのは、しゃしゃり出たい感情の露出にほかなりません。今この場においても、万雷の拍手を集め、羨望の眼差しを受けたいという目立ちたがり屋の心境です。
兼好法師は、そのように心中に「思っていることは常にあることなのだが、甚だ悪く思える」と諭しました。我が専門外の名人や上手に出会ったら、素直に学び取り、良い点を真似(まね)すればいいのであって、ただ嫉妬するだけであったり、負けまいとして注目をこちらに集めようとしたりするのは、非常に醜くて悪いことであると。
そこで、もしも「自分が知らない芸道に対して羨ましく思ったならば、「ああ、羨ましい。どうして習わなかったのだろう」と言っておけばいい」とのことです。
ある芸道を少し身に付けると、誰でもそれを人に見せ付けては自慢したくなります。その背伸びしたくなる心を戒め、自分の至らなさを自覚し、欠点や不足を補って成長するよう法師は促しているのです。(続く)