其の百七 自信過剰による失敗~決断を誤り、人を失い、自他共に大きな損失を被る

「自分自身をも他人をも頼りにしない」という兼好法師の言葉には、なかなか深い意味があります。通常は「最後に信じられるのは自分だけだから、他人を頼りにするな」などと教えます。ところが、敢えて自分をもあてにしてはならないというのです。

それは、自分を過信してはいけない、自己本位になってはいけないという注意だと思います。自分を過信すれば大きなミスを犯しかねませんし、自己本位になれば傲慢なワンマンに変身しかねません。

他人を頼りにする人の失敗ならば、騙されて痛い目に遭う程度で、さほど大きな被害には至らない場合が多いと思われます。でも、自信過剰による失敗は、決断を誤り、人を失い、自他共に大きな損失を伴う可能性があります。そういうことから、兼好法師は用心深さを求めたのだろうと考えます。

自己本位のままですと、周りが見えなくなってきて部分観に陥ります。特に過去の成功体験によって自信過剰になっている人ほど、人に対しても状況に対しても見方が偏っていきます。部分観に覆われ、物事を一面的・断片的にしか見られなくなるのです。

そもそも思考というものは、物事を多面的に見たり、根源的に見たり、流動的に見たりすることで深まっていきます。全体を観、核心を掴み、流れを読むということです。そうしてこそ、思考は筋道(すじみち)のある論理となって、より的確な決断を下し、問第解決のために必要な準備を整え、達成可能な手順や工程を組むことが出来るようになるはずです。

ところが、自信過剰で自己中心的な人の考えは部分観に陥っていますから、その為すことは自分の都合が最優先となっています。そういう人の側にいると本当に振り回されますが、それは思考に筋道が無く、ワンマンだから好き嫌いも激しく、言動が非論理的な方向に偏っているからでしょう。(続く)