その169 優秀なトップと有能な軍師、両者が揃ってこそ勝利を収められる!

では、『孫子』最終章の締め括りです。優秀なトップの下に、有能な軍師が仕えるということ。そこに、天下を取って素晴らしい政治を行う要があります。

《孫子・用間篇その五》
「昔、殷王朝が興ったとき、夏王朝にいた伊尹(いいん)の働きがあった。
周王朝が興ったときは、殷王朝にいた太公望呂尚(たいこうぼうりょしょう)の働きがあった。

こうして、ただ名君や賢将のみが、優れた智謀のある者を間者に用いて必ず大功を成す。これが用兵の要であり、全軍がそれを拠り所として動くことになる。」

※原文のキーワード
優れた智謀のある者…「上智」、拠り所…「所恃」

革命の国であるチャイナは、王朝が次々交代しました。夏王朝は殷王朝に倒され、殷王朝は周王朝に倒されます。

王朝が交代するときこそ、立派な軍師・側近が必要なときです。伊尹は殷王朝建国の功臣で伊摯(いし)ともいい、殷の湯王に仕えました。太公望呂尚は周王朝建国の功臣で呂牙(りょが)ともいい、周の文王や武王に仕えました。
太公望呂尚には、釣りをしているときに補佐役に迎えられたという逸話があり、以来、太公望といえば釣り人を指すことになりました。

伊尹と太公望呂尚は間者ではなく軍師や側近、補佐役というべき人物ですが、彼らが活躍出来た理由の一つに、老朽化して倒される運命にある王朝の情報を、よく掴んでいたということがあります。それが孫子の見解で、情報を掴んでいたということから、それも一つの間者にあたると捉えたのでしょう。

いずれにせよ、名君や賢将がいなければ、たとえ伊尹や太公望呂尚といえども何も成すことなく終わってしまいます。優秀なトップの下で働く有能な軍師がいてこそ、必要な情報が集まって来て、それを生かせます。そこに用兵の要があり、全軍はその情報を拠り所として動くことで、勝利を収めることが可能となるのです。(ヲハリ)