敵軍や敵城を攻撃し、敵将を倒そうとするときは、その前に間者が活動し、いろいろな者から情報を得ておく必要があります。守備に就いている将軍、君主の左右にいる側近、君主への取り次ぎ役(多くが宦官)は、重要な情報を知る立場の者たちですから、当然のこと探索のターゲットになります。
それから門番は、重要人物の出入りを一番正確に掴んでいるので、これも調査対象に加えます。宮中の従者も同様で、君主や大臣、将軍らの会話を聞いていますから大事な情報を持っております。こうして情報源を多くしておけば裏も取れるので、その精度が高まります。
孫子は、五種類の間者の中で、最も有効にして諜報活動の要となるのが反間であると述べました。そこでまず、反間に使えそうな者を、潜入している敵の間者から探し出します。見込みのある者がいたら買収し、「こちらに身を寄せるよう誘導して手懐け」ます。その際、大義名分でトドメを刺すことになります(大義名分で誘導した後に、利による買収でトドメを刺す場合もあります)。
そうやって反間を確保出来れば、敵の情勢が鮮明に分かってきて、より郷間や内間を使えるようになります。郷間は敵国の領民から必要な情報を収集するやり方、内間は敵国の役人を買収して間者に仕立て、情報を仕入れるやり方です。
また、反間によって敵の情勢を正確に掴めることから、タイミングを計らいつつ「死間を送り込んで偽情報を敵に告げられるようになり」ます。死間を用いるというのは、敵と味方の双方を騙しながら偽(にせ)情報を流すことです。それを味方の間者には本当だと信じ込ませ、その偽情報をしっかりと敵に伝えさせ
ます。そうすることで相手を攪乱させる策謀なのですが、やがて嘘がばれれば身柄を拘束されて殺されます。生きては帰れませんから、死間と呼ばれるのです。
なお、死間の中には、狂信的に何かを思い込まされ、それを敵領内で激しくふれ回るよう命令されている者もいることでしょう。そのふれ回る事柄の中に、相手国の世論を分断し、内政を二分させるための偽情報が含まれます。但し、死間を務める本人は真剣そのものであり、偽情報だと気付いていません。
あるいは、反間がいるからこそ「生間は計画通り任務を遂行出来るように」なります。生間は、何度も敵国から帰って来ては報告をする間者のことです。
「これら五間の重要性を、君主は必ず知るべき」であり、「反間は最も厚遇されなければならない」と孫子は強調しました。敵の間者を味方の反間に用いる、つまり敵を味方に変えられてこそ、戦わないで勝つ道が開かれるというわけです。(続く)