人間には多くのタイプがおり、表舞台に立って人前に出るのが似合う人、新しい事を起こす創業に向いている人、その理念・理論を構築し仕組みを考案するのに長けている人、舞台裏の裏方役に徹するのが好きな人、皆が迷っているときの決断が得意な人、誰かが決めてくれた後なら知恵を働かせられる人など、いろいろ存在します。
戦争においても、将軍、軍師、将校、隊長、兵卒、通信担当、輸送係、医療班など、多くの任務があり、人それぞれ自分の持ち場で励んでいます。そうした中で、一番地味ですが、勝敗を左右する上で必要不可欠となる任務がスパイや間者、防諜の仕事です。
スパイは、敵にも味方にも間者であるということを覚られないよう行動せねばなりません。いつ何がきっかけで発覚するか分からないという極度の緊張感に耐えつつ、困難を乗り越えて情報を収集していくのです。
おそらく人間の中には、本当の自分を隠しつつ相手の秘密を探るという任務に、まるで「かくれんぼ」をしているときのような楽しさを感じる者がいるのでしょう。ゾクゾクする高揚感があって、実に面白いと。
スパイは、まるで大人のかくれんぼというわけです。間者となった自分という一個の存在が、国家の命運を決めることになるのですから、その高度の使命感から来る精神の充実も大きいと思います。
《孫子・用間篇その三》
「全軍の中で、間者より親近な者は無く、賞与を与える相手として間者より厚い者は無く、仕事において間者より秘密を求められる者は無い。
だから、(間者を使う将軍は)優れた智恵を持たなければ間者を用いることが出来ず、仁義の精神を持たなければ間者を使うことが出来ず、細やかな感覚を持たなければ間者から真実を感得することが出来ない。
細やかなるかな、細やかなるかな、間者を用いずに済む所なんてあるまい。
もしも間者が集めた情報が、まだ(将軍に)報告されていないにも関わらず(外部に漏れていたため)先に(他から)聞こえて来た場合、(情報を漏らした)間者と(将軍よりも先に)情報を受けていた者の両者を殺さねばならない。」
※原文のキーワード
無い…「莫」、優れた智恵…「聖智」、細やかな感覚…「微妙」、間者から真実を感得することが出来ない…「不能得間之実」、細やかなるかな…「微哉」、間者が集めた情報…「間事」、報告されていない…「未発」、間者と(将軍よりも先に)情報を受けていた者…「間与所告者」、両者を殺す…「皆死」(続く)