続いて、スパイや間者、間諜(かんちょう)には五種類あるという解説に入ります。
《孫子・用間篇その二》
「間者の用い方に五種類ある。郷間(きょうかん)、内間(ないかん)、反間(はんかん)、死間(しかん)、生間(せいかん)だ。これら五間を一緒に働かせながら、その動きを知られないのを「神の如き治まり」と謂(い)う。それは君主の宝とすべきことである。
郷間は、敵国の領民を使って間者に用いるものだ。内間は、敵国の役人を使って間者に用いるものだ。反間は、敵国の間者を使ってこちらの間者に用いるものだ。死間は、偽り事を外に表し、それを味方の間者に知らしめて(本当だと信じ込ませから)敵に伝えるものだ。生間は、(何度も)帰って来ては報告をする間者だ。」
※原文のキーワード
間者の用い方…「用間」、一緒に働かせる…「倶起」、その動きを知られない…「莫知其道」、神の如き治まり…「神紀」、敵国の領民…「其郷人」、間者に用いる…「用之」、敵国の役人…「其官人」、敵国の間者…「其敵間」、偽り事を外に表す…「為誑事(きょうじ)於外」、味方の間者に知らしめる…「令吾間知之」、帰って来ては報告をする…「反報」
郷間、内間、反間、死間、生間で「五間」となります。五間は同時に活用することが重要で、多方面から収集した情報を付き合わせれば正確さが増します。
そうして、こちらの五間の動きを敵に知られなければ、その巧妙さは「神の如き治まり」(原文では「神紀」)と称えられるでしょう。神紀は君主が宝のように大切にすべき事柄なのです。では、五間それぞれを説明いたします。
一、「郷間」
敵国の領民を使って、必要な情報を収集する方法。
二、「内間」
敵国の役人を買収して内通させ、こちらの間者に仕立てることで情報を収集する方法。
三、「反間」
敵国の間者を手懐け、こちらの間者に転向させて情報を収集する方法。反間は、二重スパイや逆スパイのこと。
四、「死間」
敵と味方の双方を騙しながら偽(にせ)情報を流し、それを味方の間者には本当だと信じ込ませ、その偽情報をしっかりと敵に伝えることで攪乱させる策謀。
五、「生間」
何度も敵国から帰って来ては報告をする間者のこと。
死間となる者は、はじめから覚悟の上で敵に潜入しています。そして、わざと敵の捕虜になるなどして、(間者本人は本当だと信じている)偽情報を敵に伝えるチャンスを作らねばなりません。でも、最後に嘘であったことが敵にばれて殺され、生きて帰れないから死間となるのです。
間者は最期のときに味方に欺かれていたことを知るのですが、その気持ちは一体どんなでしたでしょうか。味方に騙されていたものの、間者としての使命は全う出来たということに一片の満足感があったのかも知れません。あるいは、実は分かっていながら使命を貫き通したのかも知れません。
次のような例も死間の一つと思います。味方の主君が死んだことを隠し、敵国に放っている間者にも「まだ生きている」と信じ込ませる。その間者が捕まって「我が主君は確かに生きている」と敵に伝える。そうして敵を欺き、侵攻のチャンスは、まだまだ遠いと思わせる。(続く)