筆者の世代の場合、スパイと聞けば「007」や「スパイ大作戦」、「0011ナポレオン・ソロ」などの映画やドラマを思い起こします。主人公のスパイは、強くて格好良く、冷静でジョークも言え、ハンサムで美女にモテモテです。
しかし、現実のスパイは、敵に気付かれないよう動くため大変地味な存在です。発覚すれば処刑され、誰にも知られないままこの世を去るかも知れないのですから派手さがありません。
よほど根気と体力が無ければ務まらない仕事であるものの、軍事・外交活動においてスパイほど必要不可欠な存在はありません。開戦前に展開される情報戦や宣伝戦に負けてはならず、諜報活動で優位に立つところにスパイや間者の重要性があるわけです。
《孫子・用間篇その一》
「十万の大軍を起こして千里の遠くに出征させれば、国民の出費や政府の経費が一日に千金も費やされることになる。そして、国の内外が騒動となり、道路は(軍用優先となって利用が)制限され、農事を行えない者が七十万家に及ぶ。
敵と相対峙する状態が数年に及びながら、(いざ決戦となれば)一日で勝利を争うことになる。それにも関わらず、(ご褒美としての)爵位や俸禄(僅か)の金銭を惜しんで、敵の情報を知ろうとしないのは(民衆に対する)不仁の至りであろう。それでは人民を率いる将軍とは言えず、君主の補佐役は務まらず、勝利を収める主役にはなれない。
名君や賢将が動いて敵に勝ち、成功して衆人に抜きん出るのは、敵に先んじて(情報を)知っているからなのだ。先に知っているというのは、神々に祈ることで受け取れたのではなく、過去の出来事から類推したのでもなく、天文暦数によって占ったわけでもない。必ず人を使って、敵の情勢を掴んでいるのである。」
大軍を起こす…「興師」、国民の出費…「百姓之費」、政府の経費…「公家之奉」、制限され…「怠」、農事を行えない…「不得操事」、敵と相対峙する…「相守」、一日で勝利を争う…「争一日之勝」、(ご褒美としての)爵位や俸禄(僅かの)金銭を惜しむ…「愛爵禄百金」、敵の情報を知ろうとしない…「不知敵之情」、人民を率いる将軍とは言えない…「非人之将」、君主の補佐役は務まらない…「非主之佐」、勝利を収める主役にはなれない…非勝之主」、動いて敵に勝つ…「動而勝人」、衆人に抜きん出る…「出於衆」、先んじて知っている…「先知」、神々に祈ることで受け取れたのではない…「不可取於鬼神」、過去の出来事から類推したのでもない…「不可象於事」、天文暦数によって占ったわけでもない…「不可験於度」、必ず人を使う…「必取於人」、敵の情勢を掴んでいる…「知敵之情」(続く)