その152 兵士の心情を理解した将軍のみが、勝利をもたらして国家と国民を守る!

では、補足を踏まえて、九地の復習をしましょう。

まず、諸侯がそれぞれ自国の地で戦う場合を意味する散地です。散地では、そもそも戦ってはならないというのが定石です。散地で戦うということは、既に敵に侵入されているということなのですから、勝ったところで被害が大きく負ければ大損します。この散地にあっては、散り散りにならぬよう士卒や人民の心を一体にするのが心得となります。

次に、敵国の地に入ったものの、まだ浅く入っただけという軽地です。軽地では兵士たちの覚悟が定まらず、心が軽く浮き足立ってしまいますから、そこに長く留まってはなりません。ぐずぐずしないで軍隊を先へ進め、士卒らの気持ちを前に向かって一つに連ねさせましょう。

続いて、味方が得ても敵が得ても利となるという争地です。争地では、敵に先取された場合、相手は死守しようとしますから、安易にそこを攻めてはなりません。敵味方のどちらも先取していないときは、スピードが勝負となるため、特に後方の軍隊が遅れないようしっかり走らせることが肝腎となります。

それから、味方も行けるし、敵も来られるというのが交地です。往来し易い地ですから深入りしがちです。そこで、交地では部隊間の連絡を密にして守りを謹み、分断状態にならないよう注意しましょう。

道が四方に伸びている所が衢地(くち)で、四方にはそれぞれ諸侯の地が続いています。当然、そこを誰が治めることになるのかに世間の注目が集まっており、先に至った者が天下の衆望を得られることになります。この諸侯が覇を競い合う衢地では、外交交渉(合交)が重視され、うっかり孤立させられないよう同盟関係を固めることが重要となります。

進軍して、他国に深く入った所が重地(ちょうち)です。重地では、敵の城や村に囲まれることが多くなります。重地での心得は、食糧・物資の現地調達にあります。特に食糧を絶やさないよう留意しなければなりません。

山林・険阻な要害・沼沢など、行軍が困難な地が圮地(ひち)です。圮地では、速やかにその悪路を通過するべきです。

前方が狭くて入って行き辛く、背後が険しくて帰るのに迂回しなければならないというのが囲地です。囲地では、少数の敵によって味方の大軍が撃たれてしまいかねません。ここでの心得は、謀計(奇策や仕掛け)を用いることで地の利の悪さを打開することと、イザというときは、自軍が総崩れを起こさないよう敢えて逃げ道を塞いで(味方に)腹を括らせることにあります。

最後は、奮戦あるのみの死地です。もはや行き場が無いのだから、部下たちに生きのびられないことを示すしかありません。しかし、死を覚悟して戦えば、もしかしたら生き残ることが出来るかも知れません。それが死地というものの可能性です。

覚悟を据えて本氣となる。この言い古された言葉の通り、一心となるところに勝利への道があります。兵士らは、四方を敵に「囲まれたら禦(ふせ)ごうと」するし、奮戦する以外に「他に方法が無ければ戦」うし、いよいよ「切羽詰まれば(命令にしっかり)従うことに」なります。

どうなれば腹が据わるかという「兵士の心情」をよく理解した将軍のみが、生きるか死ぬかという修羅場を潜って味方に勝利をもたらし、国家と国民を守ることが出来るという次第です。(続く)