組織というものは、放っておいたら必ず壊れるほうへ向かいます。元々、個々バラバラな人間が集まって集団を作っているのですから、努力しなければ崩れていくのは組織の性(さが)として当然のことです。
それは、軍隊という結束力の高い組織も同様です。孫子は組織の弱点、即ち「結束力が弱まりそうな点」を捉えながら敵軍を分離させ、勝運をこちらに導こうとしました。そこを衝けば、相手が一枚岩となってこちらに向かって来ることを避けられるという関係があるものです。
孫子は、その関係として4点を挙げ方針を掲げました。
・前軍と後軍→互いに連絡を取り合えないようにする。
・大部隊と小部隊→互いに頼り合えないようにする。
・身分の高い者と低い者→互いに救い合えないようにする。
・上官と部下→互いに助け合えないようにする。
これらは、まさに仲違いの元となるものばかりです。
《孫子・九地篇その二》
「昔の戦(いくさ)上手な者は、敵の前軍と後軍が互いに連絡を取り合えないようにし、大部隊と小部隊が互いに頼り合えないようにし、身分の高い者と低い者が互いに救い合えないようにし、上官と部下が互いに助け合えないようにした。
そうすることで、敵兵は離散して集合せず、たとえ集合しても整わないよう仕向けた。その上で、利に合えば動き、利に合わなければ動かなかった。
ある者が質問した。敵が整った大軍で、まさに攻めて来ようとしているときは、どのように対応すればいいのか。孫子が答えた。まず敵の要(かなめ)を奪え。そうすれば、こちらに従うだろう。
軍隊は本性として迅速を主とする。敵の隙に乗じて思いもよらぬ道を通り、無警戒な所を攻めよ。」
※原文のキーワード
敵の前軍と後軍…「敵人前後」、互いに連絡を取り合えない…「不相及」、大部隊と小部隊…「衆寡」、互いに頼り合えない…「不相恃」、身分の高い者と低い者…「貴賤」、互いに救い合えない…「不相救」、上官と部下…「上下」、互いに助け合えない…「不相扶」、敵兵は離散して集合せず…「卒離而不集」、集合しても整わない…「兵合而不斉」、対応…「待」、敵の要…「其所愛」、従う…「聴」、本性…「情」、迅速を主とする…「主速」、敵の隙に乗じて…「乗人之不及」、思いもよらぬ道を通り…「由不虞之道」、無警戒な所…「所不戒」(続く)