孫子は、繰り返し「地の利」の重要性を訴えます。戦う前が大事であり、如何にしてこちらが有利な土地を確保するか、そして相手を不利な状況へ追い込むかです。まさに、戦う前に勝敗は決まっております。
「敵の情勢を調べて」おくこと、即ち敵軍の力量を正確に把握し、常にその動きを掴んでおくことは極めて大切です。それと共に、「土地が険しいか易しい(平坦)か、遠いか近いか」を計測することが、総大将にして筆頭将軍たる「上級将軍」の必須の任務となります。
この地の利を得るということは、あくまで「戦争の補助」的条件ですが、勝利へ向かう作戦計画を立てる上で必要不可欠な事柄となります。情勢と地の利をわきまえて「戦えば必ず勝ち、それらを知らないまま戦えば必ず負ける」ことになるのですから。
こうして、現地の総大将が敵の情勢と地の利をしっかり捉えているということを前提に、孫子は次のように現場の判断の重要性を説きます。「戦争の道理として必ず勝てる場合は、(本国の)君主が戦うなと言っていても必ず戦っていい。戦争の道理として勝てない場合は、君主が必ず戦えと言っていても戦わなくていい」と。
戦争には勝敗の道理があり、これなら勝てると見込める場合、本国にいる君主が「戦うな」という指示を出していても戦うべきだし、道理として勝てる見込みが無い場合は、本国の君主が合戦の命令を出していても戦ってはならないというわけです。
何といっても、現地現場の指揮官が最も状況を知っています。動勢の変化に対して、素早い対応が出来るのも現地現場です。本国の指示を待っていたら、手遅れになる場合も多いことでしょう。
従って、脊髄反射のように、現地現場に判断能力を持たせることは本当に必要です。通信手段がどんどん発達する現代でも、リアルでしか得られない感覚がやはりありますから、この孫子の見解を軽んじてはならないと思います。
但し、いくら現地の判断が重要だからといって、現場に埋没し、部分しか見えない状態の中で判断させることの無いよう、本国(企業なら本社、活動なら事務局)はよくよく留意しなければなりません。現地現場を見よとは言うものの、そこには過去しかないというケースが多いのも事実ですから、やはり任せ切りはいけません。(続く)