その118 友好的な姿勢の陰で、実は時間稼ぎをしている敵に要注意!

荷を運び、戦車を牽く。そのために必要な家畜が馬です。これを殺すとは、一体いかなる状況でしょうか。第一は食糧不足です。「馬を殺して肉を食べてしまうのは、軍の食糧が無くなったから」だと。さすがに軍馬まで殺してしまったら戦闘にならないので、殺す馬は運送用の馬だろうと思われます。

そして「炊事道具を打ち壊してしまって幕舎に帰ろうとしない」という事態になると、決戦を前にして最後の食事を終えたことを意味します。追い詰められて「賊化し」、死に物狂いで向かって来る敵であるということを意識しておかねばなりません。

さて、上司が部下に向かって、始終ご機嫌取りに努めねばならないときがあります。「懇(ねんご)ろに合わせつつ徐(おもむろ)に兵士らに語らねばならない」という、丁寧にゆっくり語らねばならない状況です。その理由は「皆の気持ちが離れている」ところにあります。兵士に対して馴れ馴れしく諂(へつら)うばかりで、厳しく語れなくなっているのです。

また、頻繁に部下に賞状や賞金を渡しているのは、そうしなければ士気が振るわなくなっている証拠です。まさに「指導者が窘窮(きんきゅう)」しているのです。窘窮とは「詰まっていて苦しい様子」のことで、部下を動かすのに行き詰まってしまい、ご褒美で何とかヤル気を起こさせようとして苦労しているのです。

逆に「しばしば罰を与える」場合もあり、これまた「指導者が困窮している」のが原因です。やたらに罰し、圧力と恐怖で部下を動かそうとしているのですが、指導者と部下の心の溝は深まるばかりです。

やがて混乱した指導者は、精神力を振り絞って部下たちに怒鳴ります。ところが、すぐにくよくよし、たちまちへたります。「先に乱暴な態度を取りながら」、自分の言動が気になって「後で皆を畏れ」るのです。そうして「精力不足の極みに至って」いきます。

それから、敵と緊張状態にある最中(さなか)に、「敵の使者が贈り物を手に挨拶にやって来る」ことがあります。これは「休息を欲している」のです。他の敵ともめてしまい、取り敢えずこちらとは仲良くしておきたいというときも、友好的な姿勢を示すようになります。但し、あくまで表面的な態度に過ぎず、時間稼ぎの可能性が高いので、決して安心してはなりません。

あるいは「敵がいきり立って攻めて来るので、こちらは迎え撃とうとするが、なかなか戦おうとしない。それでいて去ろうともしない」というケースがあります。この場合は「必ず慎重に観察しなければ」なりません。敵本国の指導者と前線の将軍らが対立状態にあるなど、何らかの内部事情が考えられます。情報をしっかり収集し、敵の真意を的確に把握しましょう。(続く)