その115 出たり退いたりを繰り返しているときは、こちらを誘い出そうとしている

相手の気持ちが、なかなか掴めないときがあります。そういうときは、表面的な態度や雰囲気とは逆のところに、敵の真意や狙いがあるのかも知れません。

たとえば、敵側の使者がやって来て、言葉は柔弱で平和的。しかし、守備を固めつつ着々と戦闘の準備を整えているというようなときは、間もなく攻撃して来る可能性があります。「口上は謙(へりくだ)っているのに守備を増強しているときは、本当は進撃するつもりだ」というのがそれです。

一方、言葉が荒くて戦闘的、すぐにでも攻めて来そうな圧力に満ち溢れている。ところが、強気な態度は単なる牽制であって、実際は全然攻撃の意志を持たず、退くタイミングを作ろうとしているだけという場合があります。「口上が強硬で今にも進み出て来そうなときは、実は退却するつもりだ」というのがそれです。

いずれの場合も、本心がどこにあるかを見抜くため、間者(スパイ)を送り込んで敵情を調査しておく必要性があります。防備を増強しているだけのように見せかけながら狙いは攻撃にあったり、進撃を激しく唱えながら真意は退却にあったりするのですから、そこは間者の腕の見せ所でしょう。武器や兵員、食糧や物資の調達具合などを探れば、これから進撃するのか、あるいは退却するのかという意志は、かなり読み取れるはずです。

それから「戦闘用車両が前に出て来て両翼に備えているときは、陣形を整えている」というのは、戦車を基本とした「攻撃の陣構え」を起こしている様子です。軽車(軽快な戦闘用車両)を左右に並べて偉容を整え、こちらを圧倒しようとしているのです。

これも敵の心理を推理するための心得ですが、「困窮してもいないのに和を請うて来るときは、謀略が隠されている」とのこと。通常、和議を願い出て来るのは困っているときに決まっていますが、特に和を請う理由が見当たらないというのですから、何らかの謀(はかりごと)を仕掛けている可能性を疑うべきです。策謀を見落とさないよう注意しましょう。

また、にわかに動きが激しくなり、多数の戦車が繰り出されているときは決戦を求めているときです。あるいは、進み出て来たかと思うと退き、退いたかと思うと進み出て来るというときは、こちらを煽って誘い出そうとしております。「奔走して兵車を連ねているときは、決戦を期している。半分出たり退いたりを繰り返しているときは、こちらを誘い出そうとしている」というわけです。
(続く)