その114 敵はああ言っているが、本当の狙いはこっちにあるという読み

日本人は一般的に人間性が素直で、人の言葉をそのまま信じます。それはマコトの精神の表れとして、とても素晴らしいことですが、時と場合によっては問題となります。

外交がその一つで、相手国が平和友好的な言葉で接してくれば、ホッと一安心して警戒心を失い、高圧的な言葉で迫ってくれば、単に反発するか、慌てふためいてひたすら低姿勢を取ります。何度も謝罪させられることがしばしばあり、軟弱外交と批判されます。

残念ながら人間は、ありのままの気持ちを、いつも素直に言葉に出しているわけではありません。特に外国の指導者らは、自国の利益のためなら身勝手な嘘偽りや暴言を平気で口にします。本当のことは、決して言わないと心得ておくべきでしょう。

そこで、「敵はああ言っているが、本当の狙いはこっちにある」といった、相手の言葉の裏にある本音や意図を、的確に読み取るための鋭敏な洞察力が必要となります。その参考となる事例が、『孫子』に記されています。

《孫子・行軍篇その四》
「口上は謙(へりくだ)っているのに守備を増強しているときは、本当は進撃するつもりだ。口上が強硬で今にも進み出て来そうなときは、実は退却するつもりだ。

戦闘用車両が前に出て来て両翼に備えているときは、陣形を整えている。困窮してもいないのに和を請うて来るときは、謀略が隠されている。

奔走して兵車を連ねているときは、決戦を期している。半分出たり退いたりを繰り返しているときは、こちらを誘い出そうとしている。」

※原文のキーワード
口上は謙(へりくだ)っている…「辞卑」、守備を増強…「益備」、進撃…「進」、口上が強硬…「辞彊」、進み出て来そう…「進駆」、退却…「退」、戦闘用車両が前に出て来て…「軽車先出」、両翼に備えている…「居其側」、陣形を整えている…「陣」、困窮してもいない…「無約」、和を請うて来る…「講和」、謀略…「謀」、兵車を連ねている…「陳兵車」、決戦を期している…「期」、半分出たり退いたりを繰り返している…「半進半退」、こちらを誘い出そうとしている…「誘」 (続く)