初めての場所を訪問したとき、現地に詳しい案内役が必要になります。しっかりした先導役がいないと、要所を訪ねないまま帰ってしまうかも知れません。
何かの道に進む場合も同様で、先導役がいないと間違った方向へ向かう恐れがあります。自己流のままレベルの低い状態で終わってしまう根本原因は、的確なアドバイスをくれる指導者が存在しないところにあるのです。
そういう事態に陥らないよう、兼好法師は「先達（せんだつ）」の必要性を説きました。
《徒然草：第五十二段》
「仁和寺にいるある法師が、年寄りとなるまで石清水八幡宮に参拝していなかったことを心苦しく思い、ある時思い立って、ただ一人歩いて詣でた。
ところが、宮寺の極楽寺や末社の高良（こうら）などを拝んだ後、（参拝するのは）これだけだと思い込んで帰ってしまった。
さて、側にいる友人や同僚に会い、「長年心にかけてきたことを果たしましたところ、かねて聞いていた以上に尊いものでした。それにしても参拝者らが皆、さらに山へ登っていくのですが何事かあったのでしょうか。心引かれはしましたが、八幡宮の神へお参りするのが本来の目的と思って、山までは見ませんでした」と語ったということだ。
少しの事でも（案内人や先導者である）先達は、そこにありたい事なのである。」
※原文のキーワード
心苦しく…「心憂く」、歩いて…「徒歩（かち）より」、これだけと思い込んで…「かばかりと心得て」、側にいる友人や同僚…「かたへの人」、長年心にかけてきたこと…「年頃思ひつること」、かねて聞いていた以上に…「聞きしにも過ぎて」、それにしても…「そも」、参拝者が皆…「参りたる人毎に」、心引かれはしましたが…「ゆかしかりしかど」、本来の目的…「本意（ほい）」、ありたい事…「あらまほしき事」（続く）