其の三 元来の「おもしろい」は明るい様子のこと…

公家から武家へと時代の主役が移行する中、兼好法師はそれら両方の立場を繋ぎながら、自然や世の中、人間に対して鋭敏な感性を発揮しました。その豊かな観察眼を第三十一段のエピソードからご紹介し、兼好法師の細やかな人間性を味わってまいりましょう。

《徒然草:第三十一段》
「雪が明るく降った朝、ある人の許(もと)へ伝えるべき用件があったので手紙を届けた。その中に、今朝の美しい雪のことは何もふれなかった。

そうしたら、返り事に「今朝のこの雪をどう見るかなどと、一筆もおっしゃらないほどの無風流な人の言われる事を、どうして聞き入れることが出来ましょうか。何度考えてみても情けないお心です」と書いてあったが、実に趣き深い返事である。

その方は、今は亡き人となった。それで、このようなちょっとした事も忘れられないのだ。」

※原文のキーワード
明るく美しい…「おもしろい」、許…「がり」、無風流な…「ひがひがしからむ」、何度考えてみても…「かへすがへす」、情けない…「くちをしき」、趣き深い…「をかし」、このようなちょっとした事…「かばかりの事」「おもしろい」という言葉は「面白い」と書く。面(顔)が白いから面白いわけで、古語拾遺という本によれば、天照大御神が岩屋戸から復活なさった折り、世の中が急に明るくなったため神々の顔が白くてまぶしかったという。それで面白いという言葉が出来たとのことだ。つまり、元来の「おもしろい」は明るい様子のことであり、可笑(おか)しいとか興味があるとかいう意味の「おもしろい」は後世の解釈であることに注意が要る。

夜中に降った雪が朝日に照らされたとき、その明るくて美しい雪景色は誠に感動的だ。そういう日は一日中、誰と話しても朝の雪の趣(おもむき、※内容や感じ)で話題が持ちきりとなるだろう。

兼好法師はその朝、ある人に伝えねばならない用件があったので、手紙を書いて下男に届けさせた。ところが、話題に出して当然の雪景色には全くふれていない。すると相手から、その無風流さにすっかりガッカリしたという怒りの返事が来た。さて、この遣り取りを兼好法師はどう受け止めるのか…。(続く)