誰でも、日常に追われて生きております。大抵(たいてい)の目の前に起こる出来事には、差し当たって、すぐにでもやらねばならないという緊急性が付きまといます。
日常の実務というものは、外すことの難しい必要な務めです。それに、いくら目の前の作業とはいえ、やれば達成感が生じ、心が充実します。
ところが、やがて気が付けば、「目の前の事にのみ気を取られて月日を送」っている自分がいることになります。時間ばかりが、どんどん過ぎて行くことになるのです。
そうして、いろいろな事に気移りしますと、それぞれやりはしたものの、「どの事も成せないまま身は老いて」しまうということになりかねません。結局「とうとうその道の達人にはなれず、思い描いていたように身を立てられ」ないまま終わってしまう可能性があるのです。
やがて、「後悔しても取り戻せる年齢で」はなくなり、「走って坂を下る車輪のように衰えてゆくばかりとなる」というのが兼好法師の警告です。
ところで筆者は、「天命講座」等と呼んでいる人生講座を、政治家向け、経営者向け、一般向けなどに分けながら長年開講してきました。それらの講座では、必ず人生の原点を振り返っていただくようにしています。
原点とは樹木に例えれば「種」であり、芽が出て立派な大木に育つ前の種を、まず確認してもらいます。自分の中にある「人生の種」と呼ぶべき原点が見つかりますと、何を志として立てるべきかが分かって来るという次第です。
そうすれば、単なる目標設定程度で終わることのない、どっしりした「本氣の志」が立ってまいります。何のため誰のためにやるのかという目的や大義が定まり、ぶれることの少ない人生が始まります。天が求めるものに応えながら、一回限りの尊い我が人生を、命を懸けて惜しくない志や事業によって完全燃焼させていくことになるのです。(続く)