根本から自然治癒力を引き出し、健康体に導くという「全体観」の隆盛を心から願う

いわゆる煎じ薬に、湯氣とともに「もわ~っ」とした独特の匂いが立ちこめる「橋本七度煎」という薬があった。その箱には「引き風の良薬」と銘打たれており、主に中部地方の人々に愛飲されていた。第2類医薬品(服用に伴うリスクがやや高く、副作用や飲み合わせに注意が要る)ということだから、効き目のある立派な薬であったことが分かる。

母がこの薬を愛飲していて、台所兼居間には、その「もわ~っ」とした匂いが、しばしば漂っていた。七度煎という名のとおり、5回振り出してから、さらに2回煮出すことにより、合計7回も煎じて服用することが出来るという優れものであった。母が熱心に勧めてくれるので、次第に匂いも好きになり、いつの間か筆者もよく飲むようになっていた。

引き風の良薬というから感冒の薬であるが、その対象は頭痛・神経痛から、腹痛や食欲不振など胃腸症状にも及ぶ“万能薬”であった。高血圧なら高血圧だけ、皮膚の湿疹なら湿疹にだけ効くといった症状をピンポイントで抑え込む新薬が多い中、昔の薬には綜合的な働きを持つものが存在していたのである。
「橋本七度煎」の製造元(愛知県知多郡南知多町)は既に廃業し、販売中止となっている。入手出来なくなったとき、母が大変残念がったのを記憶している。

いろいろな症状に対応する万能薬と聞くと、なんだか胡散臭い氣もするが、考えてみれば全身は一つ、身心も一体なのだから、一部の症状を抑えるのではなく、全体の巡りを良くすることで風邪が楽になり胃腸も整うのは理にかなっている。
体調が良くなると同時に、精神が安定したとしても不思議はあるまい。

こうした「自然治癒力を高めて体調を整える」という点で、とても素晴らしい薬があるということを、かれこれ25年くらい前に岡山のある医師から紹介されたことがある。緑色にキラキラ発光し、さらさらしている細粉状の薬で、これが本当に薬なのだろうかと不思議に思ったことを記憶している。ずっと忘れていたが、最近ひょんなことで薬局の店員に紹介され、その薬を試飲してみることになった。

それは「ルミンA」という薬で、細粉上ではなく小さな錠剤だが、色を見てあのときの薬だとすぐに分かった。もらったパンフレットに、次のような効能・効果が書いてある。

「アレルギー疾患、倦怠(だるさ)、貧血、一般創傷、急性・慢性湿疹、急性化膿性疾患、末梢性神経炎、一般虚弱体質、汗泡性白癬(水虫)、食欲不振、熱傷(やけど)、凍傷(しもやけ)」。もう何にでも対応するという勢いである!

これらの症状を、ただ抑えるのではなく、根本的な治癒力を引き出し修復を助けるということらしい。まさに、自然治癒力を高めるサポート役である。

では、有効成分は何かというと、クリプトシアニンO.A.コンプレックスというもので、これが細胞を賦活させ、症状が起こる前の状態に修復させてくれるという。こんなに凄い効能の薬なのに、「ルミンA」はビタミン剤や胃腸薬と同じ第3類医薬品である。起源は1920年代に遡り、理化学研究所の尾形輝太郎博士らによってクリプトシアニン系の感光色素が発見されたことにあるとのこと。

驚くべきことに近年、この長年の経験知が最新科学によって裏付けられつつある。岡山大学の研究(2023年)などにより、この成分がマクロファージ(免疫細胞)を適切に活性化し、過剰な炎症を制御して組織修復を促すメカニズムが解明されてきているという。歴史ある薬の「綜合的な働き」が、現代医学のエビデンスと見事に融合してきた好例かもしれない。

また、自然治癒力を高めていく上で注目されているのが腸内細菌だ。その一つに1933年に発見された宮入菌がある(整腸生菌成分である酪酸菌)。宮入菌は「病原性細菌の増殖抑制作用はもとより、酪酸やビタミン類、消化酵素などを産生することにより、様々な角度から腸の機能を正常化させ」、「各種腸管病原性細菌に対して著明な拮抗作用があることが示され、同時に臨床試験において食中毒や腸カタルなど消化器疾患に対して優れた治療効果のあることが明らかになっている」という(ミヤリサン製薬公式HPから)。

個々の病氣(病名)の、その症状だけを狙い撃ちするという発想から、身体全体の環境を整え、根本から自然治癒力(イクタマの統合力)を引き出すことで健康体に導くというアプローチの隆盛を心から願う。「橋本七度煎」「ルミンA」「宮入菌」などがその実例と思う。人間を全体として捉える「綜観」の視点にこそ、日本を癒やす大きな可能性が眠っている。

※政経倶楽部連合会 日本政経連合総研レポート第112号 令和8年7月8日

注:本レポートは、日本固有の養生文化と自然治癒力に関する学術的・思想的考察を目的としたものであり、特定の医薬品の購入や特定治療を推奨するものではありません。

※岡山の医師から紹介されたのは「ルミンA」ではなく「生命素」という名称のものでした。効能は共通していると考えます。